ギフテッド女子を育てるために知っておきたいこと
娘さんが「ギフテッドかもしれない」と感じている親御さんへ。
ギフテッドの子どもを育てる際、特に女の子には、慎重な配慮が必要です。
ギフテッドの女の子は素晴らしい才能を持つ一方で、その才能ゆえに生きづらさを感じることがあるのです。
ここでは、ギフテッド研究者のダグラス・イービー氏の『Gifted Women: Identity and Expression』や、ボストン・コンサルティンググループの調査結果をもとに、ギフテッド女子が持つ特性や直面する困難、そして親としてできるサポートについてまとめてみました。
ギフテッド女子が抱えやすい特性とその背景
1. 知的・感情的“内的プロセス”の複雑さ
ギフテッドな個人は、完璧主義・内向性・理想主義・極度の敏感さ・強い好奇心といった特徴を複合的に併せ持つことが多く、これは単なる知的能力の高さではなく、“内面のプロセス”としてのギフテッド性であるとされています。
たとえば、興味の対象が次から次へと変わる流動性、落ち着きのなさ、自己を「散漫」と評価する傾向、知的な過剰興奮(excitability)、高いエネルギー、感情の反応性(emotional reactivity)、絶え間ない好奇心などが挙げられます。
2. 完璧主義:美徳か否か
完璧主義については「適切な高い志(excellence)」と「非合理的な完璧主義(perfectionism)」の二面性があります。
前者は成長の原動力となる一方、後者はストレスや自己否定、非生産的な行動へとつながりやすいのです。
実際、ギフテッドの少女たちの中には「A評価以外は意味がない」と感じて学業を諦めてしまうケースや、すべてを完璧にこなせないと先に進めない「白黒思考」に陥ることもあります。
完璧主義は時にはネガティブに働き、諸刃の剣なのです。
3. アンドロジニー(両性具有性)とジェンダー境界の曖昧さ
多くのギフテッド女子は、リーダーシップや自律性といった「伝統的に男性的」と見られる特性と、共感力や優しさという「女性的」とされる特性を両方保持しています。
このような性役割のバランス=アンドロジニーの感覚は、創造的であることとも密接に結びついています。
さらに、ギフテッド同士の少女や少年は同じ性別の非ギフテッドの子どもよりも、むしろ互いに似ていることがあるのです。
つまり、性別役割にとらわれない性質が強く、その結果、「明確な性別の枠にはまらない」として同性からの理解や承認を得にくくなることもあるのです。
4. 社会の古い価値観とのすれ違い
日本社会にはなお、「女の子は・・・すべき」といった伝統的なジェンダー観が根強く存在します。
そのような社会の風潮と、ギフテッドでアンドロジニー的な特性を持つ女子の資質がぶつかることで、「自分はみんなと違う」「自分の在り方はこれでいいのだろうか」といった自己葛藤が生まれてしまいます。
自分のギフテッド資質を隠し、他の女子と同調しようとしてしまったり、また、同調できないことに悩むギフテッド女子は人知れず葛藤している場合もあるのです。

5. 「偽物」と感じるギフテッド女子の気持ち
ギフテッドの女の子が特に悩む問題のひとつに、「インポスター症候群(詐欺師症候群)」があります。
これは、学校で良い成績を収めても、周囲から褒められても、「自分は本当はたいしたことがない」「いつか偽物だとバレてしまう」と感じてしまう心理です。
親御さんから見れば娘さんの才能は明らかかもしれません。
しかし本人は、自分の成功を「まぐれ」や「運がよかっただけ」と片付けてしまい、過小評価してしまうことがあります。
イービー氏は、著名な女優ジョディ・フォスターですらオスカーを受賞したときに「偽物のように感じた」と告白していることを紹介しています。
多感な時期にある小中学生の女の子が、また謙遜が美徳とされる文化の中にいる日本の女子が、このように感じるのは不思議ではありません。
こうした気持ちが強くなると、娘さんは周囲に浮かないように、また「生意気」と思われないように自分の才能を隠そうとしてしまいます。
これは彼女たちの可能性を閉ざしてしまうことにつながりかねません。
親ができること:ギフテッド女子の才能を守り、育むために
イービー氏は、娘さんの才能を育むために「レジリエンス(精神的回復力)」が鍵になると述べています。
家庭でできるサポートは、大きく4つのステップに分けられます。
1. 娘さんの特性を「認識」する
まずは、娘さんが周囲の子と違う理由や、悩みの背景を理解しましょう。
その際にギフテッドの女子ならではの繊細さや複雑な思考を知ることが大切です。
たとえば、完璧主義で宿題をなかなか始められないとき、「どうして早くやらないの?」と責めるのではなく、「完璧にやりたいんだね」と認めて、寄り添ってあげること。
また、完璧に成し遂げなかった時にも、その努力の過程にフォーカスして、寄り添い、讃嘆してあげることが大切です。
娘さんは「自分をわかってくれる人がいる」と安心できます。
ギフテッド児の才能を支える家庭教育の記事も参考にして、娘さんのためのセーフ・スペースを構築しましょう。
2. 娘さんの個性を「尊重」する
子どもの個性は性別によって決まるものではありません。
社会の「女の子らしさ」に当てはめようとせず、好奇心や探究心、リーダーシップなどの個性を尊重しましょう。
もし娘さんが旺盛な好奇心を持ち、次々と新しいことに挑戦したがるタイプだったり、人を引っ張っていくリーダーシップを自然に発揮する性格だったとしても、「女の子らしくない」と抑え込む必要は全くありません。
逆に、それらの特性を「あなたらしさ」として認め、伸ばしていくことが大切です。
「人と違うからこそ素晴らしい!」という肯定的なメッセージを日常的に伝えることで、娘さんは自分の価値を信じ、自分らしく行動する勇気を持てるようになります。
これは自己肯定感の土台となり、将来、社会の偏見や障壁に直面したときにも、自分の意見を持ち、道を切り拓いていく力につながります。

3. 娘さんに「助けを求める力」を育てる
多くの日本の女子は、他者を助けることには長けていますが、自分から助けを求めることをためらう傾向があります。
これは「人に迷惑をかけないこと」を美徳とする日本文化や、女性は控えめであるべきという古い価値観の影響もあります。
一方、欧米では、困難に直面したときに助けを求めることは「主体性」や「問題解決能力」の一部とみなされ、教育の中でも積極的に促されます。
この違いは、将来の職場や国際的な舞台での自己主張力やチームワーク力に大きく影響します。
困った時に「助けて」と言える勇気を育てるため、親御さんはアドバイスよりもまず傾聴を心がけ、娘さんの感情を受け止めてあげましょう。
学校で悩んでいるときには、「先生に相談してみようか」「一緒に解決方法を考えようか」といった声かけが効果的です。
4. 自己主張(アサーティブネス)の育成
日本文化では、協調性や周囲との調和を重んじるあまり、特に女性は自分の意見を強く主張しないことが美徳とされる傾向があります。
しかし、ギフテッド女子の将来の活躍の場として最有力候補、国際的な舞台では、自分の意見や希望を明確かつ尊重をもって伝える「アサーティブネス」が高く評価されます。
例えば、アメリカやオーストラリアでは、授業や会議で発言しないことは「関心がない」「分からない」と見なされることがあり、積極的な発言が能力や熱意の証とされます。
一方、日本では、沈黙は「熟慮」や「礼儀」と解釈されることが多く、この価値観の違いが海外での評価ギャップにつながり、日本のみならず国際的な場での女性のリーダーシップに大きな影響を及ぼしています。
娘さんが国際的な環境でも自信をもって意見を述べられるようにするには、家庭内で「小さな自己主張」の練習を積み重ねることが有効です。
家庭内で様々な社会問題に対する考えを交換したり、家族会議で違う意見をリスペクトしながら自分の主張をするなど、日常の中で上手に自己主張ができる練習の場をつくりましょう。
国際的なリーダーシップに必要な自己発信力を家庭で身につけましょう。
5. 家庭でジェンダーバイアスを排除する
ボストン・コンサルティンググループの調査によれば、日本における女性の社会進出を阻む大きな要因の一つは、幼少期から家庭や学校で無意識に植え付けられる男女別役割の固定観念です。
たとえば、周囲から聞こえる「女の子は算数や理科が苦手」「女の子は大人しく」「女子は手先が器用」といったステレオタイプ、あるいは男兄弟と比べて任される家事や期待される行動の違いは、知らず知らずのうちに子どもの自己評価や将来の選択肢を狭めてしまいます。
北欧諸国やカナダなどジェンダー平等が進んだ国々では、家庭での役割分担や声掛けに性別を持ち込まない教育が徹底されており、その結果、女子も自然にSTEM(科学・技術・工学・数学)分野やリーダー職に進むケースが増えています。
日本の家庭でも「女の子だから」「お姉ちゃんなんだから」という言葉は避け、行動や選択を性別ではなく本人の興味や能力に基づいて認める姿勢が大切です。
こうした環境は、娘さんが自分の意見を堂々と表現する「自己主張(アサーティブネス)」を育てる土台となり、将来どのような場でも自信を持って発言できる力へとつながります。

娘さんの才能を輝かせるために
有名な振付師マーサ・グラハムはこう言っています。
「あなたの中にある生命力は、行動となって表れる。
そして、この世にあなたと同じ人間は一人もいないのだから、その表現はユニークなもの。
もしあなたがそれを塞いでしまえば、他を通して存在することはなく、失われてしまう。」
娘さんの持つ才能はかけがえのない宝物です。
親としてギフテッド女子の一番の味方になり、彼女の心に寄り添い、温かく見守ること。
「女の子」という枠ではなく、一人ひとりをかけがえのない存在として尊重すること。
これこそが、才能を伸ばす最大の支えになります。
出典