ギフテッド男子を育てる ― 心の中を理解することから始めよう
by Ihoko Kondo
「ギフテッド女子を育てるために知っておきたいこと ]の記事を読んだ方から、男子はどうなのか、とのご質問を受けました。
今回はギフテッド教育のカウンセリングの側面から、ギフテッド男子の特性と対処の仕方をフロリダ州教育庁のギフテッド教員認定講座資料を参考にお届けしたいと思います。
少々学術的な表現が多いかもしれませんが、宜しくおつきあいください。
私自身は女の子しか育てていないので、ギフテッドに特化した学校で教師として働きながら、「なぜこの子はこんなに強く反応するの?」「どうしてこんなに一人で考え込むの?」と男子の様子に戸惑うことが多々ありました。
実はその敏感さや激しさこそが、ギフテッド特有の内なる体験なのだと、学ぶことになりました。

「わかってもらえない」男の子たち
ギフテッド教育では、「現象学的体験(Phenomenological Experience)」という言葉で、子どもが自分の内側でどんな風に世界を感じているかを大切にします。
男の子は、社会的に“強くあれ”“感情を抑えろ”と求められやすいですが、実は彼らの心はとても繊細で、理想が高く、正義感に満ちています。
「泣かないで」「男の子なんだから我慢しなさい」「男子は強くあるべきもの」という一言が、彼らの豊かな感受性を傷つけることもあるのです。

ダブロフスキの理論から学ぶ ― 成長の「分解と再構築」
ギフテッドの心理学でよく使われるのが、カジミエシュ・ダブロフスキの「ポジティブ脱分化理論(Theory of Positive Disintegration)です。
これは、「内面的な葛藤」や「感情の揺れ」は、人格がより高い次元に成長していくためのプロセスである、という考え方です。
たとえば、正義感が強く、学校の不公平に怒りを感じる男の子。
「なんで僕だけ怒られるの?」「先生の言うことが間違ってる!」
ギフテッド、そしてアメリカという土壌もあり、幼い生徒でも教職員に抗議してくることも多々ありました。
特に「不公平だ」と感じることに対しては、「フェアじゃない!」と、ひときわ強く反応していました
そんな時、大人は「反抗的」と捉えがちですが、その裏に高い道徳意識や倫理感があるのです。
「正しいことをしたい」という気持ちを認め、「あなたの考えを聞かせてくれる?」と寄り添うことで、彼の内面の“再構築”が進みます。
その上で、子供が不満に思う”大人側の結論に至る過程”を説明し、納得がいくまで話会いました。
倫理観、正義感に揺れる男子の葛藤は、単なる反抗や自己主張、壊れる過程ではなく、“成長の証”ととらえて、しっかりと向き合うようにしました。
男の子の「過度の刺激性(Overexcitabilities)」を理解する
ダブロフスキの理論では、ギフテッドの子どもたちはしばしば「過度の刺激性(OE)」を持つとされています。これは、感情や感覚、想像力などが人よりも強く反応する特性です。
特に男の子の場合、次のような特徴が見られます。
心理的な強度:理不尽なことに強く怒り、正義を貫こうとする
知的な集中力:好きなテーマに没頭し、時間を忘れて調べ続ける
感情的な敏感さ:家族や動物、ニュースの出来事に深く共感する
身体的なエネルギー:動きながら考える、じっとしているのが苦手
想像的な世界:空想や創作に夢中になる
これらは一見「落ち着きがない」「極端すぎる」ように見えても、中には典型的な発達障害の特徴があらわれている場合もあります。
しかし、これらは内的なエネルギーが高い証拠なのです。
つまり、「欠点」ではなく「才能<ギフト>の源」なのです。

感情の教育 ― 「怒り」や「涙」は成長のチャンス
ギフテッド男子に多いのが、強い怒りや涙です。
理想が高く、思考が早いため、周囲の不公平や不合理に敏感に反応します。
また、IQとEQのバランスが取れず、デコボコに成長していく子もいます。
「怒り」は、単なる反抗ではなく、「正しい世界を求めるエネルギー」でもあります。
ここで大切なのは、怒りを押さえ込むのではなく、言葉で表現する力を育てることです。
「あなたがそう感じたのはどうして?」
「何が一番イヤだった?」
「それをどう変えたいと思う?」
こうした対話を通して、怒りの背景にある“理想”を理解してあげましょう。
「泣いてもいい」「考えを話していい」という安全な家庭環境が、自己理解と共感力を育てます。
「孤独」をどう支えるか ― 仲間がいない子への理解
ギフテッドの男の子の中には、同年代の友達と話が合わず、孤立してしまう子もいます。
「みんなのゲームの話についていけない(興味がない)」「自分の考えを話すと引かれる」と感じていることも多いのです。
そんな時、親ができるのは「あなたは間違っていない」と伝えること。
さらに、“同じ空気”を持つ仲間に出会える場を探してあげることです。
科学クラブ、プログラミング教室、模型製作、読書会など、興味の近いコミュニティが“心の居場所”になります。
彼らは、年上や大人との会話の方が合うことも多いので、家庭では「大人の対話」を積極的にむ努力をしてみましょう。

「競争」より「探求」 ― 男の子の学び方を変える
学校では、点数や順位が重視されがちですが、ギフテッド男子は探求型の学びを好みます。
一度夢中になると、専門家顔負けの知識を身につけることもあります。
その好奇心を止めずに、「なぜ?」を歓迎する家庭環境を整えましょう。
「どうしてそう思うの?」
「それを調べるにはどんな方法があるかな?」
といった質問で、思考を深めてあげることが、彼らの知的喜びを育てます。
結果よりも「プロセスを楽しむ」姿勢を共有することが大切です。
感性の力を育てる ― 芸術・自然・哲学との出会い
多くのギフテッド男子は、科学や数学だけでなく、芸術や自然、哲学にも惹かれます。
音楽や絵画、自然観察、星空、歴史書など、「感じる」活動は、心を豊かに保つバランスの要です。
内面の深い男の子ほど、「生きる意味」や「善と悪」など大人びたテーマを考える傾向があります。
そんな時、「難しいこと言うね」と流さずに、一緒に考えてみましょう。
「あなたの考え、すごく興味深いね」と伝えることで、思索を誇れる自己感が生まれます。
お母さん・お父さんへ ― 「育てにくさ」は“光の強さ”の裏返し
ギフテッドの男の子を育てていると、「どう接すればいいかわからない」「疲れてしまう」と感じる時もあるでしょう。
でも、その“育てにくさ”の奥には、強い光があります。
それはまだ形を持たない才能であり、彼ら自身が人生を創っていくための燃料です。
親の役割は、「コントロールすること」ではなく、「安全な港であること」。
どんなに嵐が来ても、「帰ってこられる場所」を守ることが、最大の支援です。

最後に ― 「あなたのままで大丈夫」
そのまま全て-Being-を受け入れる にも書かせていただきましたが、ギフテッド男子に最も必要なのは、理解されることです。
「おまえは変わってる」と言われ続ける中で、
「そのままでいい」「あなたはあなたで素晴らしい」と言ってくれる大人が一人いるだけで、人生は変わります。
そしてその一人が、あなた(親)なのです。
息子さんの中にある情熱、正義感、夢想、涙、すべてが“ギフト”です。
どうか焦らず、そのギフトが開いていく瞬間を、あたたかく見守ってあげてください。












