ギフテッドの発達シリーズ④
思春期は「脳の第二の伸びしろ」:ギフテッド(13〜19歳)を伸ばす環境と関わり方
思春期(13〜19歳)は、身体だけでなく脳が大きく作り替えられる時期です。2006年に発表されたブレイクモア博士らの研究1では、思春期は幼児期に続く「脳発達の第二のセンシティブ・ピリオド(敏感期)」とも位置づけられています。
この時期の脳では、よく使われる回路は残り、あまり使われない回路は薄くなる(刈り込み)ことが進みます。だからこそ思春期は、まさに――
“Use it or lose it.”(使うか、失うか)
刺激のある学びや体験が少ないと、脳のつながりが弱まり、発達が後退したように見えることがある、という指摘もあります。ギフテッドの子ほど、「刺激の質と量」**が成長に直結します。
思春期の脳で起きていること
思春期の移行期には、次のような変化が重なります。
- 神経回路の整理(刈り込み):使う回路は強化、使わない回路は弱くなる
- 可塑性(柔軟性)は低下していく一方で
- 記憶の活用(短期・長期)や情報検索の速さが伸びやすい
つまり、「何でも吸収する」幼児期とは違い、思春期は何を使ったかで脳が形づくられる時期です。

親・教育者の役割は「環境を用意すること」
思春期の子どもに必要なのは、ただ知識を詰めることではなく、
- 複雑な思考課題
- 社会的・情緒的な経験
- 自分で選び、結果を引き受ける体験
です。これらが不足すると、認知・情緒・社会性の発達が伸びにくくなり、将来の高次思考に影響が出る可能性が示されています。
例:ワーキングメモリを育てる課題
単に暗記した内容を言い直すよりも、
複雑な問題を解き、学んだことを自分の経験とつなげて説明するような課題のほうが、ワーキングメモリが鍛えられます。2
思春期の子どもが抱える「発達課題」
思春期は心身の変化が大きく、本人も圧倒されがちです。多くの子が次のテーマに強く向かいます。
- 自立したい
- 自分のアイデンティティを見つけたい
- 価値観・人生観を形づくりたい
- 自己動機づけ・自己肯定感を育てたい
- 他者のニーズや社会への貢献に目が向き始める
一方で「自分はこうありたい」と「社会が求める姿」のズレに苦しみ、仲間や活動、時に危うい選択(物質・行動・グループ)を通じて“自分探し”をすることもあります。ここでの選び方が、その後の進路や人間関係を大きく左右します。

ギフテッド思春期の強み
ギフテッドの思春期の子は、困難に対処するための資質を持つことが多いとされています。たとえば、
- 概念化する力
- 代替案を見つける力
- 多様なパターンや関係性を捉える力
- 早く結論を出さず曖昧さに耐える力
- 自分を満たす形で表現する力
これらは思春期の揺れを乗り越える大きな支えになります。
一方、ギフテッドならではの「しんどさ」もある
多くのギフテッドは、学業や自己成長の面ではギフテッド性を強みと感じやすい一方で、対人・仲間関係では不利だと感じることがあります。
- 親や友人からは否定的反応が少ない場合もある
- しかし同年代の仲間からは、ステレオタイプ(決めつけ)にさらされることがある
- 一部の場面では評価されリーダー機会もあるが、いつもではない
その結果、「周囲が自分の才能をどう見ているか」と「自分自身の感覚」にギャップが生まれやすいのです。
そして思春期は、ケアする大人にとっては最もフラストレーションが大きい時期になりがちですが、同時に自発性・自立・創造性を伸ばす最高のタイミングでもあります。ここでの“再構築”が成熟した卓越へつながる、と整理されています。
なお、思春期のギフテッドの心の問題についてはギフテッド思春期に潜む危機「鬱」と希望 の記事で詳細を説明していますので、そちらをご覧ください。

思春期(13–19歳)領域別:発達と支援
身体(Physical)領域
| 前期思春期 (13–15) | 後期思春期 (16–19) | 特徴 | 支援のポイント |
| 身長・体重の急増/女子の成長スパートがピークに近い | 男子の成長スパートがピーク、成長はほぼ完了/二次性徴が進む | 加速進級などで身体的に成熟した集団に入り、違和感・孤立感が出ることがある | 年齢ではなく発達段階の差を前提に、安心できる所属先(居場所)を確保 |
認知(Cognitive)領域
| 前期思春期 (13–15) | 後期思春期 (16–19) | 特徴 | 支援のポイント |
| 思考が急伸(抽象・仮説・メタ認知 | 記憶活用・情報検索が速くなる/統合が進む | 環境が易しいと退屈→無関心・能力不発揮(中学期に出やすい) | 暗記中心より、複雑課題・探究・経験×知識の接続を増やす |
社会・情緒領域(Social/Emotional)
| 前期思春期 (13–15) | 後期思春期 (16–19) | 特徴 | 支援のポイント |
| 承認・所属への関心が急上昇/感情の波が大きい | 自己理解が進み、対人スキルも再構築 | 同調圧力や先入観から、才能を隠す(否認する)ことがある | 評価より対話/感情の安全基地+等身大で話せる仲間を確保 |
精神・道徳領域(Spiritual/Moral)
| 前期思春期 (13–15) | 後期思春期 (16–19) | 特徴 | 支援のポイント |
| 公平さ・正義への感受性が強まる | 意味・価値・目的の問いが深まる | 理解が高度でも、行動化には支援が要る場合がある | 正解の押し付けより、葛藤を言語化できる場と経験の機会を |
学習面:刺激が足りないと起きやすい「アンダーアチーブメント」(本来の力を発揮できていない状態)
ギフテッドの子は、思春期に入る前から抽象思考などを使っていることが多く、学習環境が加速・高度化しないと、
- 退屈
- 達成への無関心
- 中学期のアンダーアチーブメント(能力不発揮)
が起こりやすいと整理されています。背景には、
- 学校内容への退屈
- 親や社会の価値観への挑戦
- 仲間から受け入れられたい気持ち
などが挙げられます。
また、思春期のギフテッドには「教師に動機づけられるより自己動機が強い」「粘り強い」「静けさより音があるほうが集中」「視覚・体感覚優位」「一人で学ぶのを好む」などの傾向も紹介されています。

社会性・情緒:才能を隠す「予防的な適応」
思春期は受容・所属・自尊感情が核心です。ギフテッドは成熟と洞察が光る一方で、
達成と友人関係の間で揺れやすく、仲間からの拒否を予期して才能を隠すことで適応しようとすることもあります。
また、思春期(特にギフテッド)には、自分で選び、結果を経験し、自律性を育てる機会が重要だと強調されています。
多才な子ほど将来計画に迷いやすく、大人が一つに絞らせようとすると、他の可能性が萎むリスクもあります。
精神性・道徳:問いが深まるが「行動」は自動ではない
思春期は、道徳的な「ルールの問い」よりも、精神的な「意味の問い」が増えていきます。
ギフテッドは価値や正義に敏感で、他者視点や公平さを早くから育てやすい一方、人生の目的や自分の存在意義に悩むこともあります。
道徳発達理論の整理では、思春期後半〜成人期初期にかけて、状況判断から原理(人権・公正・手続きなど)に基づく判断へ移行するとされ、ギフテッドでは早まる場合があるとも示されます。
ただし、認知が高いことは「正しい行動」を保証しません。最適化には、特別で具体的なプログラムや介入が必要だ、という結論も紹介されています。
まとめ:思春期は「才能を再構築する時期」
思春期は、脳・心・価値観が同時に組み替わる時期。
ギフテッドの子にとっては特に、環境が「刺激的で、選択できて、安心できる」かどうかが決定的です。
- 複雑で意味のある学び
- 社会性と感情の経験
- 自律性(選択と結果)
- 価値観を語れる対話
様々な思春期ギフテッドの研究をまとめると、この4つがそろう事により、思春期は「生きにくい時期」から「飛躍の準備期間」に変わるとされています。
先にも書きましたが、思春期のギフテッドの心の問題については、こちらの記事をご覧ください。
この時期は非常に多感であり、ギフテッドにとって多くの心の落とし穴が潜んでいます。
周囲が正しくギフテッドを理解し、適切な支援を行うことがとても大切です。
引用・参考文献
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