ギフテッドの「弱点」は、才能の裏返し
― 感情・完璧主義・人間関係・集中・表現のアンバランスを理解する ―
ギフテッド(特異な才能を持つ子どもたち)は、一般的に「頭の良い子」「天才肌の子」として見られがちです。しかし、彼らの内面を深く見つめると、その才能の輝きと同じだけ、繊細で扱いにくい側面を抱えていることが分かります。
それは「弱点」というよりも、強みと表裏一体の課題。つまり、才能の源泉でもあるのです。ここでは、ギフテッドによく見られる5つの「弱点(課題)」を通して、その背景と支援の方向を考えてみましょう。

1. 感情の強さや繊細さ(過敏性)
ギフテッドの子どもは、喜びも悲しみも、他の子どもよりずっと深く、鋭く感じ取ります。たとえば、映画の悲しいシーンを見て涙が止まらなかったり、友達の何気ない一言に強く傷ついたりします。
これは「情緒過敏性」と呼ばれ、ダブロフスキの「過度激動(Overexcitabilities)」という理論でも説明されています。彼らは、感情の世界が非常に豊かで、他者の痛みや社会の不正に対しても敏感に反応します。
この感受性は創造性や共感力の源でもありますが、同時にストレスや不安、自己否定につながることもあります。周囲の大人が「感じすぎ」と否定せず、「それだけ心が深いんだね」と受け止めてあげることが、情緒の安定につながります。
また、感情ばかりでなく、物理的な条件に関しても過敏性が多くみられます。温度や光、音などに関して通常よりも敏感に反応し、特定の条件下でなければ集中できない場合もあります。
ラーニング・スタイルのモデルを参考に、お子さんの最適な条件を確認しましょう。
2. 完璧主義・失敗への恐れ
ギフテッドの多くは、自分に非常に高い基準を課します。小さなミスにも強い不安を感じ、「完璧でなければ価値がない」と考えてしまうことがあります。
この傾向は学業だけでなく、絵や音楽、スポーツなどあらゆる領域に見られます。結果として、「失敗を恐れて挑戦できない」という状態に陥ることもあります。
親や教師は「結果よりも過程を認める」声かけを心がけましょう。たとえば「うまくいかなかったけど、工夫していたね」「考え方がすごく面白いよ」といった具体的なフィードバックが、子どもの自己効力感を育てます。
3. 社会的孤立・人間関係の難しさ
ギフテッドの子どもは、年齢よりもずっと大人びた思考を持つことが多く、同年代との会話にギャップを感じやすい傾向があります。興味関心が合わない、空気を読みすぎて疲れる、人間関係に「意味」を求めてしまう──そんな姿がよく見られます。
また、ユーモアのセンスや価値観の違いが誤解を招くこともあり、「生意気」「変わっている」と言われ、孤立することもあります。
しかし、彼らは決して「人嫌い」ではありません。むしろ深くつながる関係を求めています。共通の興味をもつ友人や理解者との出会いが、心の支えになります。
家庭では、「無理にみんなと同じでなくてもいい」というメッセージを伝えることが安心感につながります。
そのまま全て-Being-を受け入れる の記事をご参照ください。

4. 興味の偏り・課題への集中しすぎ
ギフテッドの子どもは、ある分野に強い情熱を注ぎ、時間を忘れて没頭します。昆虫、宇宙、プログラミング、歴史、音楽――興味が湧くと、専門家並みに知識を吸収することも珍しくありません。
しかしその一方で、他の科目や日常生活への関心が薄れ、バランスを欠くことがあります。宿題を後回しにしたり、話しかけても返事をしなかったりと、周囲には「わがまま」「集中しすぎ」と見られることも。
大切なのは、この集中力を否定せず、少しずつ広げるサポートをすること。
例えば「この興味を使って作文を書いてみよう」「このテーマを調べて発表してみよう」といった形で、学習や社会性につなげると良い結果が得られます。
5. スピードや表現の不均衡(頭では理解しているが、書くのが遅いなど)
ギフテッドの中には、思考のスピードが非常に速い一方で、書く・話す・整理するといった表現面が追いつかない子どももいます。
頭の中には完成したイメージがあるのに、それを言葉や文字にする段階でエネルギーを消耗し、挫折感を味わうケースも多く見られます。
これは怠けではなく、「認知のアンバランス」や「2E(二重特性)」と呼ばれる特性によるものかもしれません。
支援のポイントは、プロセスを支える環境を整えること。口頭で説明させたり、キーボード入力を許可したり、思考と表現の橋渡しをしてあげる工夫が必要です。

おわりに ― 「弱点」は成長の地図
ギフテッドの「弱点」は、欠点ではなく発達の方向を示すサインです。
感情の深さは共感力に、完璧主義は努力の継続力に、孤独は探究の原動力に、偏りは専門性に、不均衡は創造性に。
見方を変えれば、すべてが強みに変わります。
大人にできることは、その光と影の両面を理解し、安心できる環境の中で子どもが自分のペースで成長できるよう支えることです。
ギフテッドの育ちは、まるで「光の反射」を見つめるようなもの。
光が強ければ影も濃い。けれど、その影の中にこそ、次の可能性が眠っています。
参考文献
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