—— 加速教育と心のケアを統合する視点が未来を救う——
才能を持つ子どもたちの「裏側の現実」
子育ての中で、思春期やティーンエイジャーの子どもとの向き合い方に悩んだり、戸惑いを覚えたりすることは、誰にとってもごく自然なことだと思います。
私たちは母娘二人のシングル家庭でしたが、二人三脚のように支え合い、笑いの絶えない、とても温かな関係を築いてきました。
それでも、娘が成長するにつれ接し方を変えていく必要があったのに、私は自分の子ども時代の感覚や価値観を手放せずにいました。
その結果、気づかないうちに衝突や葛藤を生んでしまうこともありました。
ある日、娘は人間関係が原因で心が病み、抑うつと診断され、抗うつ剤を処方されました。
アメリカの場合は、処方をしなかった事によって自傷行為が発生した場合には医師が法的な責任を負うため、即座に抗うつ剤が処方されます。
日本的な考え方を持つ私は「抗うつ剤」には抵抗があったのですが、本人が投薬を希望したので、専門医のアドバイスに素直に従いました。
幸運にも抗うつ剤との相性がよく、薬によって娘の体調や心の具合の改善がみられました。
その後大学に進学し、新しい人間関係ができて状況が改善するまでの数年間、薬のお世話になっていました。
今回は、ギフテッドの情緒的支援団体 SENG(Supporting Emotional Needs of the Gifted)の「高度ギフテッドの思春期に見られる抑うつ障害 Depressive Disorder in Highly Gifted Adolescents」(2022)をもとに、思春期のギフテッドの裏側に潜む深刻な心理的苦痛の存在をご紹介したいと思います。
ギフテッドは、能力が高いという理由だけで、「大丈夫であるはずの人」 と扱われることが多く、心のケアに対する理解は極めて不足しています。
特に思春期は、自分自身のアイデンティティ、将来、周囲との関係などが大きく揺らぐ時期です。
この時期に、理解者の欠如、過重な期待、完璧主義、感情強度、孤立などが重なると、抑うつや自殺念慮へとつながる危険性があります。
SENGは特に、
「ギフテッドの抑うつは、表面では見えにくく、支援が必要な時に誰にも気づかれないことが多い」と警告しています。

「抑うつ」と「うつ(うつ病)」の違い
まず、「抑うつ」と「うつ(うつ病)」は、似ているようで本来は異なる意味を持つ言葉なので、ご説明させていただきたいと思います。
まず、「抑うつ(うつ状態)」とは、気分が落ち込む、意欲や興味が低下する、元気が出ないといった、気分の落ち込みの症状そのものを指す言葉です。
ストレスや疲労、人間関係の問題、環境の変化など、身の回りの出来事がきっかけとなって誰にでも起こりうる状態で、多くの場合は休息や環境調整、信頼できる人との会話、生活リズムの改善などによって回復していきます。
つまり、抑うつは一時的であることも多い反応で、必ずしも病気とは限りません。
一方、「うつ」「うつ病(大うつ病性障害)」は、医師が診断する精神疾患の名称です。
抑うつ症状が長期間続き、日常生活に大きな支障をきたす状態で、「消えたい」「自分には価値がない」といった深刻な思考、強い無気力、睡眠障害、生活機能の低下などが見られるのがうつ病です。
本人の努力だけで改善することは難しく、専門家の治療やケアが必要となります。
簡単にまとめると、
抑うつ=気分が沈む症状の名前
うつ病=診断が必要な病気今回は抑うつについて掘り下げてみたいと思います。

高ギフテッドに抑うつが生まれやすい背景
Comallie-Caplan氏によると、ギフテッド生徒の良くうつ病は、彼らの才能や強みがサポートされなかった場合や、目前に起きている現実が理想に反する場合に発生すると述べています。
SENG論文は、ギフテッドの抑うつの要因として、以下の5点を挙げています。
1. 真の仲間 (True Peers)の不足
知的興味や思考のスピードが同年代と大きく違うと、心から分かち合える相手がいない孤独が生まれます。
この孤立は、成績優秀で活発に見える生徒であっても心の底では深刻です。
2. 完璧主義と自己否定
ギフテッドは自分の理想像が高く、到達できない現実とのギャップを自分の価値の欠落と捉えやすい傾向があります。
「100点以外は失敗」と感じ、自己否定に陥ります。
3. 周囲の期待の重圧
親・教師・社会からの期待が「当然」になると、安心して失敗できる場所がなくなることで苦しみます。
4. 感情強度(Overexcitabilities)
感受性が強く、世界の問題や他者の痛みを深く受け止めすぎてしまいます。
5. 成長の非同期性
知性は成人並みでも感情は年齢相応。
そのギャップが自己混乱と対人ストレスを引き起こします。
SENGは、これらが複雑に絡み合うことで、
表面上は成功しているのに内側では崩れている状態が生まれると述べています。

危険信号:静かに進行する「見えないうつ」
ギフテッドの抑うつは、一般的なイメージである「泣く、落ち込む」という形では現れないことがあります。
むしろ逆に、過剰な頑張りと優等生的行動で隠されることが多いのです。
SENGが示す注意すべき兆候
★ 極度の疲労、眠っても回復しない
★ 興味や喜びの消失(特に以前好きだったもの)
★ 友人や活動からの離脱、孤立
★ 口数が減り表情が変わる
★ 成績は維持されているのに生気がない
★ 「消えたい」「疲れた」「自分なんて価値がない」の言葉
★ 外では完璧、家で崩れる二重構造
★ 自殺念慮(直接的 or 間接的)
特に、「死にたい」「いなくなりたい」といった表現は最優先対応が必要な赤信号とSENGは強く述べています。
加速教育は心の支援にもなる
フロリダ州のギフテッド教員教育資料 では ギフテッドの教育環境において、加速教育(Acceleration)が学問面だけでなく社会性と精神面でも効果的であると説明しています。
加速は社会性を損なうという神話は誤りであり、むしろ孤立や抑うつの予防に役立つ。
(Colangelo, Assouline & Gross, 2004 A Nation Deceived)
加速教育の効果
☆ 同レベルの思考を持つ同輩と出会える
☆ 挑戦と達成のサイクルが保たれる
☆ 待機時間がなくなり退屈と停滞を防ぐ
☆ 自己肯定感と自律性が育つ
この研究は研究は50年以上蓄積され、加速教育が社会性・幸福度に悪影響を与えるという証拠は存在しない
と強調しています。
つまり、適切な教育配置は、うつの根本原因である孤立と停滞を防ぐ社会的支援でもあるということです。

早期発見のためのチェックリスト
行動の変化
| 観察ポイント | チェック |
| 疲労・無気力・過眠 | ☐ |
| 興味や喜びの喪失 | ☐ |
| 友人や活動からの撤退 | ☐ |
| 「平気」と言い続ける | ☐ |
| 悲観的・自己否定的な言葉 | ☐ |
| 成績は良くても表情やエネルギーが低い | ☐ |
| 「消えたい」「眠り続けたい」の発言 | ☐ |
支援環境の状態
| 支援項目 | チェック |
| True Peersと出会える環境 | ☐ |
| 助けを求められる大人 | ☐ |
| 休息と余白の時間 | ☐ |
| 存在そのものを承認する文化 | ☐ |
| 失敗が許される空気 | ☐ |

ギフテッドの支援とは、心を守ること
理解 × 選択肢 × つながり
ギフテッドにとって最も支えとなるのは、「ありのままの自分でいてよい場所」 と「同じ深さで語り合える仲間」です。
学力支援だけでは足りません。
加速教育、仲間とのつながり、心のケア、そして余白。
そのすべてが揃ったとき、彼らは才能を「生きるための力」として開花させます。
もしもうつの症状がみられたら
うつの兆候が見られたときは、評価や助言よりも先に、まず「聴く」ことが大切です。
解決を急がず気持ちを受け止めることで、安心が生まれます。
そして、「あなたは一人じゃない」と伝え、そばにいる姿勢を示しましょう。
さらに、睡眠・食事・日光などの生活リズムを整えることは心の回復に強く影響します。
ここからは、私が受け取った娘の心療内科からの指示書をもとに、書かせていただきます。
1. まずは休息と安全の確保
☆ 学校や仕事を休むことが必要であれば、迷わず休む
☆ 眠れない、食べられないなどの兆候を軽視しない
☆ 本人が「つらい」「何も感じない」「消えたい」と言った場合、決して否定しない
最初は心身を回復させるための休息が最優先です。
2. 信頼できる人に相談させる
☆ ひとりで抱え込ませない
☆ 感情の整理よりも「聴いてもらえる安心」が重要
☆ 親や先生、スクールカウンセラー、友人など
絶対に「頑張って」「気のせい」「甘えている」などと言わないことが大切です。無条件に受け止めてあげましょう。
3. 専門医療機関に相談する
迷わずに、専門家に相談しましょう。
日本では投薬に関してかなり否定的な意見が多いように見受けられますが、一時薬の力を借りる事があっても、我が家のように薬で難局を乗り越えられる場合があります。
娘の場合は何ら副作用はなく、環境の変化、心の成長に伴い、自然に薬から離脱する事ができました。
最悪の事態に至らぬためにも、先入観念や、素人のネット情報に頼らず、数多くの症例をみてきた専門の医師としっかり相談して、最善の方法を探してください。
専門医の探し方
☆ かかりつけ医・学校経由で紹介を受ける
☆ 自治体のメンタルヘルス支援窓口
☆ 子ども家庭センター
☆ 教育相談センター(都道府県)
☆ 生徒指導・スクールカウンセラー制度
4. 学校へ早めに共有する
特に思春期は、欠席が増える、成績が急に下がる、急に孤立する、イライラや無気力が増えるなどの変化が起こりやすいため、学校側の理解と支援が重要です。
朝だけ保健室登校、オンライン対応、提出物の調整など柔軟なサポートを受けられる場合がありますので、学校に相談してみましょう。
5. 危険なサインがある場合はすぐに対応
緊急のサイン
「死にたい」「消えたい」「いなくなりたい」と言う
自傷行為がある
遺書めいた話をする・SNS投稿が極端
急に元気になる(決意後の兆候)
即時連絡先(日本)
- いのちの電話:0120-783-556
- よりそいホットライン:0120-279-338 24時間対応 / 外国語・LINE相談あり
- 子どものSOS:#9110(警察相談)いじめ、犯罪被害、不安なとき
- #7119(救急相談)救急車を呼ぶか迷った時の医療相談
その他、抑うつなどの症状が出た時点でかかりつけ医に相談し、緊急の場合の対処方、連絡先を確認しておくと良いでしょう。
ギフテッドの子どもたちが持つ好奇心、感受性、創造性。それらはただの「才能」ではなく、未来を切り拓く大きな力です。
大切なのは「正しい理解」「安心できる環境」「選択肢の多さ」。
教育に携わるみなさん、保護者のみなさん、そして当事者のみなさん ― 一人ひとりがその可能性を信じ、支えていくことで、日本にも「ギフテッドを育む文化」が広がっていくでしょう。
📚 出典
- SENG (2022). Depressive Disorder in Highly Gifted Adolescents.
- Beacon Educator: Guidance & Counseling for the Gifted — Chapter 8
- Colangelo, Assouline & Gross (2004). A Nation Deceived / A Nation Empowered












