幼い頃に光る才能と、その背景にある発達的特徴
ギフテッド教育の現場では、才能の芽は 乳幼児期(0〜3歳) からすでに現れ始めると言われています。
しかし、日本では「まだ小さいからわからない」「早熟なだけでは?」と誤解され、適切に理解されたり支援されたりするケースはそれほど多くありません。
一方でアメリカや欧米諸国では、乳幼児期の発達特性を丁寧に観察し、早期から環境を整えることで、子どもの潜在能力を大きく伸ばすアプローチが用いられています。
この記事では、「乳幼児期に見られるギフテッドの兆候」 を、発達の4つの領域(身体・認知・社会情緒・精神/道徳性)に沿って整理します。
※ 後続の記事では、幼児期(3〜6歳)、児童期、中高生期へと発達段階別に紹介予定です。

1. ギフテッドは発達が“均一ではない”
多くの研究で指摘されているギフテッド児の特徴のひとつに、
「非同期発達(Asynchronous Development)」があります。
☆ 知的能力の発達だけが突出する
☆ 情緒面や身体面の発達が同年齢より遅れて見えることもある
☆ 年齢の割に高度な思考を持つ一方、感情の対処方法は幼いまま
例えば、1〜2歳で文字や数字に異常なほど興味を示し、独学で読み始める子もいますが、同時に自己コントロールが難しく、気持ちの切り替えが苦手で癇癪を起こしやすいことがあります。
能力の高さと生活スキルが一致しないため、周囲から 「扱いにくい子」「わがまま」 と誤解される場合も少なくありません。

2. 乳幼児期(0〜3歳)ギフテッド兆候チェックリスト
(※転載の際はご連絡ください。)
身体・感覚(Sensory / Physical)
| ① 物音や光、触覚など刺激への反応が同年齢より強い・敏感である | □ |
| ② 新生児期から周囲の声や表情に鋭く反応した | □ |
| ③ 観察力が高く、細かい変化にすぐ気づく | □ |
| ④ 運動能力や身体発達が著しく早い、または逆にアンバランス | □ |
| ⑤ 同じ感覚刺激を嫌がる(服のタグ、靴、髪を触られる等) | □ |
認知・言語(Cognitive / Language)
| ⑥ 言葉の発達が早く、語彙が多い・話し始めが早い | □ |
| ⑦ 数字・文字・形・パターンの認識に強い興味を示す | □ |
| ⑧ 同じテーマに長時間集中し、探求をやめない | □ |
| ⑨ 「なぜ?どうして?」と因果関係を追求する質問が多い | □ |
| ⑩ 想像力が非常に豊かで、物語・空想世界を語る | □ |
社会・情緒(Social / Emotional)
| ⑪ 気持ちの切り替えが難しく、こだわりが強い | □ |
| ⑫ 不公平・矛盾・ルール違反に敏感 | □ |
| ⑬ 同年齢の子より大人と話すことを好む | □ |
| ⑭ 他者の感情に深く共感する(涙もろい・心配する) | □ |
| ⑮ 集団より一人の活動を好む、または逆に強い孤独感 | □ |
精神・道徳性(Moral / Existential)
| ⑯ 生と死、宇宙、自然、世界の問題など哲学的な質問をする | □ |
| ⑰ 動物・弱い立場の人への思いやりが非常に強い | □ |
| ⑱ 「正しさ」「意味」「善悪」について深く考える | □ |
🔍 判定の目安(目安として活用してください)
| チェック数 | 傾向 |
| 10項目前後以上 | ギフテッド特性が顕著に見られる可能性 |
| 5〜9項目 | 一部領域で強い可能性、追加観察が有効 |
| 4項目以下 | 現時点では特徴が目立たないが成長で変化も |
注意:
このチェックリストは診断ではなく、可能性の観察ツール です。
強みと弱みが混在し、非同期発達が背景にある点が重要です。

💡 活用のポイント
結果を「能力の芽」としてとらえる 行動の裏には、身体・情緒・認知の発達のアンバランスが隠れていることがあります。
困りごとは「ギフテッドの特性」から生まれていることも多い 例:こだわり=集中力の高さ、語彙の多さ=過敏さの裏返し
比較対象は「同年齢」ではなく「その子自身の変化」
3. 「困った行動」に見える背景
ギフテッドの強みは、同時に「生きづらさ」や誤解と結びつくことがあります。
| 可能性のある強み | 一見“問題”に見える行動 |
| 高い集中力 | 切り替えができず癇癪を起こす |
| 豊かな想像力 | 不安や恐怖が強くなる |
| 高い正義感 | 大人に反論する/頑固に見られる |
| 感覚の鋭さ | 過敏で偏食・登園拒否に発展 |
| 自立心の早さ | 協調性がないと言われる |
子どもは「困らせよう」として行動しているのではなく、「内側にある強い力をどう扱って良いかわからない」 ために起きているのです。

4. 保護者ができる優しいサポート
☆ 興味を制限せず、自由に探求させる
興味の深さはギフテッドの原動力です。
☆ 感情のコーチングを大切に
大切なのは「落ち着かせる」前に 共感する こと。
☆「ちがうこと」を肯定する
同調を求められやすい日本の集団文化では特に重要。
☆完璧さよりプロセスを認める
失敗経験は成長に不可欠。
5. まとめポイント
乳幼児期は、ギフテッドの特性が最も強く表れやすい時期です。
しかしその多くは、周囲の理解不足により「問題行動」とみなされ、才能の種が潰されてしまうこともあります。
ギフテッドは完成された存在ではなく、育てられる存在。
レンズーリ博士の言葉を借りれば、
「ギフテッドは努力と時間と環境によって育つ」
才能の芽を守り育てるのは、家庭と学校、そして社会の役割です。
次回は、
「幼児期(3〜6歳)に見られるギフテッド兆候」について詳しくご紹介します。
最後に
「うちの子、ちょっと育てにくい?」と感じるとき、それは実は 能力の芽が動き出しているサイン かもしれません。
どうか、困りごとの裏側にある大きな可能性に目を向けてください。
参考文献
Beacon Educator (2025). Gifted: Guidance & Counseling Syllabus.
Neihart, M., Pfeiffer, S. I., & Cross, T. L. (2016). The Social and Emotional Development of Gifted Children.
Reis, S. M., & Renzulli, J. S. (2009). Roeper Review.
Fonseca, C. (2011). Emotional Intensity in Gifted Students.
Bainbridge, C. (2017–2018). VeryWell Family.
Lovecky, D. V. (2011). Different Minds.
Assouline, S. G., Colangelo, N., & Gross, M. U. M. (2015). A Nation Empowered.
Dabrowski, K. (1972). Positive Disintegration.












